おかざきPの記録

Mac, QNAPの設定やプロデューサー業の記録

スピーカーとアンプのインピーダンスの組み合わせ

結論

  1. インピーダンスを気にする必要があるのは真空管アンプ
  2. 半導体アンプであれば常識的な使用範囲ではインピーダンスを気にする必要はない
  3. スピーカーとアンプのどちらに安全マージンを取るかで議論の内容が逆転する

背景

 スピーカーを更新しようかと思って色々と調べてると「インピーダンスがー」という話をチラホラと見かけた. 「発電所がー」のレベルであれば無視していいのだが,最悪スピーカーかアンプが故障するというのだから無視できない. そんな重要な問題にも関わらずオームの法則を使った中途半端な記事や, 逆に詳細すぎて結論としてどうしたらいいのか判然としない記事に多くぶつかったため,自分で問題を整理しようと思った.

カタログスペック

 実例を元に故障しない使用範囲を計算する. 故障するかを考えるだけならインピーダンスの周波数特性など必要ないため, インピーダンスを直流抵抗として扱う. こうなるとほぼ中学校理科のレベルで議論ができる.

スピーカー

 私が気になっているものと保有しているもののヤマハ製品を例に見てみる.

型番 インピーダンス 許容入力 最大入力 能率@1m 構成
NS-F901 6 ohm 50 W 200 W 89dB/2.83V フロアスタンディング
NS-B750 6 ohm 30 W 120 W 87dB/2.83V ブックシェルフ
NS-C500 6 ohm 40 W 160 W 87dB/2.83V センター

 これらが壊れるのは許容入力を常時超える電力もしくは,最大入力を瞬間的に超える電力が入力された場合になる. ではスピーカーに電力が入力される状況は?と問われれば当然,音を出す時である. すなわちスピーカーが無事かという問題はどこまでの音量 = 電力を入力してもいいのかという問題になる.

 電力と音量の関係を能率を例に計算してみる. 今回のスピーカーは全て6 ohmのため,能率で示されている2.83 Vは W = E^2 /Rから1.33 Wに相当する. つまり,

許容入力>30 Wに対してたった1.3 Wで87dBもの音量

が得られる. dBの値と実際の音はデノンのブログの下部の表が一番わかりやすいのだが, 87dBなどというのは家庭で聞く分には非常に大きな音に分類される. ということで近所迷惑にならない範囲で鳴らしていれば,音量由来でスピーカーが壊れることはまずない. そんな簡単に壊れてたらクレームの嵐で商売にならないのだから当然だろう.

 参考として許容入力 W_{max}をスピーカーに投入したらどうなるかを計算しておこう, まず音の大きさ Sを音のエネルギー Wで表す.  Sと音の振幅 Pの関係は音量の単位dBの定義に従うと以下のように変換できる.


\begin{align}
S &= 20 log(P/P_0) \\
&= 10 log(P^2/P_0^2)\\
&= 10 log(W/W_0)
\end{align}

 ここで P_0音の基準音圧 W_0 P_0のエネルギーを表す. 能率で求めた1.33 W以上の投入電力が全て音に変換されると仮定する. 能率を S_1とすれば W_{max}を入力した時の音量は次のようになる.


\begin{align}
S_{max} - S_1 &= 10 log(W_{max}/W_0) - 10 log(W_1/W_0)\\
&= 10 log(W_{max}/W_1)\\
S_{max} &= S_1 + 10 log(W_{max}/W_1)\\
&= S_1 + 10log(W_{max}/1.33 W)
\end{align}

 許容入力の最も小さいNS-B750のスペックを代入した時の音量は87dB + 10 log(30/1.33) = 100dBとなる. これはデノンによればライブハウスやカラオケの音量に相当する. こんなものを常用していればスピーカーの前に自分の耳やご近所関係が壊れる.

アンプ

 同様にアンプも確認する.私はAVアンプを使用しているため,ヤマハのAVアンプを例にとる.

型番 インピーダンス 定格出力 定格出力時の電圧 実用最大出力 ch数
RX-S601 6 ohm 60 W/ch 19.0 V 125 W 5
RX-V4A 6 ohm 80 W/ch 21.9 V 145 W 5
RX-A2A 8 ohm 100 W/ch 28.3 V 165 W 7

 上で計算した通りスピーカーは1.33 Wもあれば大音量で鳴るため,アンプを定格出力で稼働させることは通常はない. 誤って音量最大 = 定格出力にしてしまっても,上2つはインピーダンスが一致しているため明らかにスピーカーの最大入力以下に収まる.

 では残るRX-A2Aを計算してみよう.定格出力時の電圧は28.3 Vになる.これを6 ohmのスピーカーにかけると W = E^2/Rより133 Wと計算される. 残念ながらNS-B750の最大入力120 Wを超えてしまうため,間違ってボリュームを最大に振り切ることがないように注意が必要となる. さらには定格出力100 Wのつもりがスピーカー側のインピーダンスが低いために,想定以上の出力133 W (< 実用最大出力165 W)をしてしまっている.

音源のクリップ問題

 音源の問題でスピーカーが破損することはあるらしい. マスタリングで限界まで詰め込まれた音源とかが危険なのかもしれない.

真空管アンプ

 上で計算したのはあくまでスピーカーと半導体アンプの組み合わせで故障するかを議論しただけ. 真空管アンプの性能を引き出すには色々と考えるよう.